大好きな君と大嫌いな君
「怪しいなあ……。そんな風に必死に否定したところで、意味ないからね」
「必死に否定するってことは、嘘じゃないってことなのにー」
「違うよ。仮に瞳の話が本当だったら、強く否定しなくてもいいんだよ。だって、誤解されているだけだったら別にいいじゃん」
「よくないよ! 誤解が一番困る」
「あ、もしかしたら……」
唯は笑みを見せた。
「何? なんか、嫌な笑い方だなあ」
「そもそも、悠里のことを見ていることを、瞳は気づいていなかったりして。私に言われて初めて気づいた?」
唯は嬉しそうに言った。何が嬉しいのか全然わからない。
でも、唯の言っていることは当たっていた。確かに、私は悠里のことを見ているって気づいていなかった。言われてみれば、心当たりはあった。必死に否定はしたけれど、内心どこかで悠里のことを気になっていたのかもしれないと思った。
唯に言われたことがきっかけだった。
それまで、気づいていなかったことに気づく。無意識が意識的になる。
そんなことになってしまった結果。
私は悠里のことが好きになってしまった。明確に判断できるほど好きという状態になってしまった。
唯に教えてもらわなければ、私は悠里のことを好きにならなかったかもしれない。
いいのか、悪いのかわからない。人を好きになるという状態は好ましいのだろうか?
唯はありがた迷惑なのかも。
ともあれ、私は悠里のことを見ていたのは事実だ。もしかしたら、今まではただ黒板を見ていたときに目に入っただけだったのかもしれない。無意識のことだったので、本当の私の気持ちは判断できん。
でも、唯のせいで私は悠里を余計に見るようになってしまった。見てはいけないと思い込むほど、気になってしまう。目が悠里の方に動いてしまう。この行動は止められそうにない。
人のせいにするのはよくない。知っている。でも、こればっかりは唯のせいな気がする。と、人のせいにする。
「あ〜本当に困る」
私は部屋でニヤニヤしながら呟いた。
困っているのに、どこか嬉しそうな自分が気持ち悪かった。
完全に恋に落ちているなと思った。他人事のように言っているが、とても困っているんだよこっちは!
唯……!