溺愛社長の2度目の恋
彼は涼しい顔でコーヒーを飲んでいるが、なぜこんな条件がまかり通ると思っている?

「でも、天倉社長は結婚していらっしゃいますよね?」

私の視線が彼の左手薬指に向かう。
それに気づいたのか、天倉社長はカップを置き、確認するように左手を持ち上げた。

「ああ、これ?」

そこにはまごうことなく結婚の証しが嵌まっている。

「そうだねー……」

するりと指環を撫でたあと、社長は淋しそうに眼鏡の奥で目を伏せた。

「僕は八年前に妻を事故で亡くしていてね。
今でも僕は彼女を愛しているから、こうして指環を」

ぽつりとこぼした彼はつらそうで、聞いてはいけなかったと悪い気持ちになる。

「それは……すみません」

「いや、いいんだ。
これは君にも関係のある話だからね」

吹っ切るかのごとく社長は勢いよく顔を上げた。

「『四菱地所』って知ってるかい?」

「それは、まあ」

四菱地所といえば都心の一等地にいくつもビルを構える、不動産会社だ。
それになんの関係が?

「僕の父はそこの会長でね」

「そうなんですね、知らなかったです」

驚きはあったが、そうなんだとくらいにしか思わなかった。

「まあ、公にはしてないからね」

なぜか軽く、社長が肩を竦める。

< 11 / 184 >

この作品をシェア

pagetop