溺愛社長の2度目の恋
「ひとり息子の僕には、跡取りを期待されていてね。
今は親類が社長をしているが、将来的には僕の子供に継がせたいらしい。
しかし僕と亡くなった妻とのあいだには子供がいないんだ」

はぁっと物憂げに社長はため息をついた。
もしかしてだから、彼とのあいだに子供を作ってほしいという話なんだろうか。
だったら、ここの採用を蹴るのは断腸の思いだが、それでもお断りだ。

深里(みさと)……あ、亡くなった妻なんだけど、深里が亡くなってから再婚しろって母がうるさくってさ。
四十になってからはもうあとがないとばかりに酷くなって。
でも僕は今でも深里を愛しているから、再婚する気なんてまったくない」

子供云々じゃないのにはほっとしたが、だとしたらどうして私と結婚したいのか理解ができない。
そんな私を置いて、天倉社長の話は続いていく。

「それで、誰かと偽装結婚すれば、母も諦めてくれるんじゃないかと」

そこでいったん言葉を切り、社長は真っ直ぐに私を見据えた。

「こんなお願い、無茶苦茶だってわかっている。
でも僕は君の会社を辞めた理由を聞いて気に入って、頼んでみようと思ったんだ」

社長の目は少しも揺るがない。
それだけ、決意は固いのだと気づいた。
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