溺愛社長の2度目の恋
「有史さんがその方を愛していてどうしてもというなら私も少しは考えますが、愛のない偽装結婚なら関係ありません。
天倉家にふさわしい方との婚姻をまとめて、別れていただくだけです。
さ、行きますよ」

再びお義母さんは有史さんの手を引っ張り、行こうと促してくる。

「夏音」

有史さんはそれに抵抗しながら、私を振り返った。

「とりあえず行ってくるよ。
もちろん先方はお断りするし、母さんにもちゃんと説明してわかってもらう。
だから、心配しなくていい」

私を安心させるように、うんとひとつ彼が力強く頷く。

「わかりました。
いってらっしゃい」

私もそれに、頷き返したんだけれど。
――有史さんはその日、帰ってこなかった。



ほとんど眠れないまま朝を迎える。

「うーっ、やっぱり既読にもなってない……」

携帯の有史さんと私のトークルームには、いくつも私からのメッセージが並んでいるだけだった。

「どうなってるんだろう……」

電話ももちろん繋がらない。
不安で不安で堪らなかった。

もしかしたら直接、会社に行っているかもしれない。
期待して出社した。
会社に着くと、スタッフたちが心配そうに社長室を覗いている。
そこには有史さんはおらず、末石専務がお義母さんの相手をしていた。
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