溺愛社長の2度目の恋
すぐに彼が私に気づいて腰を浮かしたが、それより早くお義母さんがソファーから立ち上がり、社長室から出てくる。

「有史さんがやっと、この会社を辞めて後を継ぎ、私の勧める方と結婚するって言ってくださったの」

「え……」

棒立ちになる私を無視して、彼女のが手を引っ張る。
そのまま、ふらふらと社長室へと連れていかれ、末石専務の隣に座らされた。

「さあ、離婚届にサインしてちょうだい」

嬉しくて堪らないのか、満面の笑みで彼女が私の前に離婚届を広げる。

……こんなの、嘘。
だって有史さんは、これからは私とふたりで幸せになるって誓ってくれた。

無意識に、左手薬指をなぞる。
茫然自失で目を落とした離婚届は、真っ白だった。
檜垣さんとの結婚を決めたときは、すぐに出せるように全部埋めてあったのに。

……もしかして、有史さんの意思じゃ、ない?
今、連絡が取れないのも、なにか理由があるのかも。

一縷の望みが見えた気がして、少しだけ心が軽くなった。

「ちゃんとお礼も用意してありますからね」

離婚届の隣に、お義母さんはペンと一緒にメモ帳のようなものを置いた。

「好きな金額を書いていただいてかまいません」

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