溺愛社長の2度目の恋
彼は私をエスコートしながら、後ろを振り返った。

「まだその気、っと」

小さく檜垣さんが呟いた意味が、私にはわからなかった。

檜垣さんは私を家に送ってくれた。

「寝るまで傍にいてやるから、安心して寝ろ」

無理矢理私をベッドに突っ込み、彼が枕元に座る。

「……ひとりで大丈夫ですよ」

それでも顔を見られたくなくて、置いてある有史さんのシャツを抱いて丸くなった。
すぐに頭上から、小さくはぁっとため息が振ってくる。

「……いつから泣いてないんだ」

檜垣さんの手がそっと私の頭に触れ、びくりと反応してしまう。

「天倉さんが出ていってからか?
このままじゃ夏音が――壊れる」

まるで泣くのを促すかのように檜垣さんがゆっくり、ゆっくりと私の頭を撫でる。
今、私に優しくしないでほしい。
つらい私はその手に、縋りそうになる。

「大丈夫ですよ、私は案外、丈夫なので」

彼の手をやんわり振り払い、起き上がる。
無理矢理でもいいので笑顔を作った。
それを見てみるみる檜垣さんの顔が、泣き出しそうに歪んでいく。

「俺じゃ、ダメなのか」

彼が、私を抱き締めた。

「俺なら、夏音をこんなふうに泣かせたりしない」

檜垣さんを選べば、私は幸せになれるってわかっていた。
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