溺愛社長の2度目の恋
しかし、あのガラス玉のような目を思い出し、伸びかけた手は止まった。
また、私なんて知らない人だと言われたら、今度こそ立ち直れなくなる。

「……行かない」

手をぎゅっと握りしめて止め、嫌々と首を振る。

「夏音ちゃん?」

「行けない」

有史さんは今、私のことをどう思っているんだろう?
もしかして嫌いになった?
そんなことはないとわかっていながら、それでも知るのが怖い。

「そうだよな」

檜垣さんが置いた封筒を引き戻し、ポケットにしまう。

「別の手を考えるかー」

慰めるように彼は少し笑った。



その後、しばらくはなんの進展もなかった。
ただ、お義父さんが病気らしいという話を聞き、少し心配になる。
しかし、それと有史さんが私と別れ、別の人と結婚するのは違う話だ。

あれから何度も、有史さんの代理だという弁護士が家に来ている。
彼との離婚と即時退去を求められたが、頑として首を縦に振らなかった。
直接私に言わず、代理を立てるなんて彼ならありえない。
それにこの家を離れたら、二度と有史さんと会えなくなる。
そんな気がしていた。



「メシ行こーぜ!」

その日は夕方になって檜垣さんが顔を出した。

「来るなら来ると連絡入れろ」

小言を言いながらも末石専務は笑っている。

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