溺愛社長の2度目の恋
小さく檜垣さんが肩を竦める。
そんなはず、ない。
わかっているけれど、つらくなって俯いていた。

「……ごめん、夏音ちゃん」

「えっ、あっ、大丈夫、です」

すまなそうに檜垣さんに詫びられ、慌てて笑ってその場を取り繕う。

「そうだぞ、あの会社は有史が自分の理想を実現するために苦労し立ち上げ、ここまで育て上げたんだ。
未練がないなんてあるはずがない」

末石専務は渋い顔でジョッキ残ってきたビールを飲み干した。

「わかってる。
俺だって近くで見てきたからな。
でもその会社を、夏音ちゃんを、取り上げられそうになってるんだぞ?
いくらなんか事情があっても、反応なさすぎだろ」

吐き捨てるように言い、ちょうど焼けた肉を檜垣さんが口に入れる。

「それは……」

とうとう末石専務も、俯いて黙ってしまった。

「それに俺は、あのスカした天倉さんが、慌てふためくところを見てみたい!」

「……は?」

檜垣さんの主張で、末石専務とふたり仲良く同じ一音を発し、まじまじと彼の顔を見ていた。

「いっつもそれがどうしたの?って、見下したみたいに笑っていやがって。
高校時代からの付き合いだが、俺はあの人が取り乱したのを深里ちゃんが亡くなったときしか見たことがない。
てか、あれは取り乱さなければ人間かどうか疑うレベルだ。
そんなわけで、俺はあの人を慌てふためかせてみたい」
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