溺愛社長の2度目の恋
少しして彼が私の前に置いたのは、掛け蕎麦と天ぷらだった。

「え、天倉社長が作ったんですか?」

「そう。
一応、引っ越し蕎麦にしたけど、蕎麦とか鯖アレルギーはないよね?」

なんでもないように言いながら、彼は同じ料理が少しずつのったお盆を持った。

「はい、ありません」

鯖なんてどこにもないのに、どうして尋ねられるのかはわからなかったが、あとで出汁にさば節を使っているからだと知った。

「よかった。
冷めるとあれだから、先に食べてていいよ。
僕は深里のところへ行ってくるから」

お盆を手に、天倉社長が部屋を出ていく。

「深里のところ……?」

少し考えて、亡き奥様の仏壇に供えに行くのだと気づいた。

「くーっ、尊い……!」

もう亡くなって八年も経つ奥様にお供えに行くなんて、尊すぎる……!
「あれ、まだ食べてなかったの?」

しばらくして戻ってきた社長は手つかずの私の食事を見て、不思議そうな顔をした。

「あー、ごちそうさまです……」

「ごちそうさまって、なにも食べてないじゃない。
変な子だね」

「は、はははは……」

おかしな目で見られたが、まさか社長の純愛に悶えていましたとか言えるわけがない。

「さ、すっかり冷めちゃったけど、食べようよ」

「そうですね」

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