溺愛社長の2度目の恋
「僕は深里との結婚指環以外、興味がないからね」

人が聞けば酷い言葉だが、私は尊い純愛に興奮していた。

深里さんとの愛を守るための偽装妻である私が高級な結婚指環などおこがましく、並べられた中で一番シンプルなものを選んだ。

「それでいいのかい?」

「はい、これで」

天倉社長は意外そうだが、私は偽物として慎ましやかでいいのだ。

今日は作るのもあれだし夕食を食べて帰ろうという話になったが、まだ時間が早いので天倉社長は前言どおりディーラーに寄った。

「夏音はどんな車がいい?」

「えっと……」

笑顔で聞かれ、困ってしまう。
私としては国産軽自動車でいいと思っていた。
それが問答無用で、高級外車ディーラーに連れていかれると誰が思う?

「……軽自動車でいいです」

私が言った途端、社長がぷっと噴き出し、なにが起こっているのかわからない。

「そこも、深里と同じこと言うんだ?」

「えっと……」

ツボにでも嵌まったのか、天倉社長は笑い転げていて途方に暮れた。

「ごめん、ごめん」

ようやく笑い終わり、彼が笑いすぎて出た涙を、眼鏡を上げて指の背で拭う。

「なんか、深里とこうやって話したのを想い出すよ」

眼鏡の奥で目を伏せた社長は淋しそうで、私の胸まで切なく締まる。

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