溺愛社長の2度目の恋
「僕にも嵌めてくれるかい?」

「えっ、それは深里さんに申し訳ないです!」

ぶんぶんと勢いよく首を振ったものの、強引に社長から指環を握らされた。

「いいから」

「……はい」

押し切られ、仕方なく彼の指に指環を嵌める。

「今日からよろしくね、奥さん」

にっこり笑ったかと思ったら、――天倉社長の唇が重なった。

なにが起こったのかわからず、自分の唇に触れる。

……もしかして私、天倉社長とキス、した……?

自覚した途端、怒りと自分でもよくわからない感情が湧き上がってきた。

「……ファ」

「ふぁ?」

「ファーストキス、だったのにー!」

泣く必要はないのはわかっているが、それでもじんわりと涙が滲んでくる。

「え、夏音、ファーストキスだったのかい?」

黙ってこくこくと頷く。
そんな私に天倉社長ははぁーっと重いため息を落とした。

「……誤算、だったね」

困ったように彼が笑う。

「悪いけど、母や周囲の人間の目を欺くためには、キスくらい必要になる。
でも、これはただの演技だって夏音には割り切れないよね?」

もしかして天倉社長は、私が上司に啖呵を切った件からサバサバした、割り切れる性格だとでも思ったんだろうか。
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