溺愛社長の2度目の恋
私の顔を見て彼が笑う。
その顔は諦めたようでも、困った子だねとでも思っているようでもあった。

「ありがとうございます、天倉社長!」

よかった、このまま即離婚とかになったら、なんのために彼との結婚を決意したのかわからない。

「だったら、天倉社長は禁止だよ」

「ふが」

いきなり鼻を摘ままれ、変な声が漏れる。

「じゃあ、なんと呼べば」

「有史。
名前で呼んで」

男性を名前でなんて今まで、親戚のお兄ちゃんくらいしか呼んだことがない。
新たにやってきた試練に怯みそうになったが、私がこの関係を続けると決めたのだ。

「ゆ、……有史、さん」

呼んだ途端、顔があっという間に熱くなる。
しかも私から出た声は、酷く小さかった。

「うん。
よくできました」

それでも天倉社長――有史さんから褒めるように頭をぽんぽんされ、機嫌がよくなっていた。

「じゃあ僕は部屋に行くね」

先に有史さんがソファーから立ち上がる。
廊下との境まで行って、彼はこちらを振り返った。

「そうだ。
夏音は深里と言うことが似ているから、キスしてもいいって気持ちになったんだ……とか言っても、なんの慰めにもならないか。
ごめん、変なこと言ったね。
忘れて」

< 41 / 184 >

この作品をシェア

pagetop