溺愛社長の2度目の恋
一度、深呼吸して覚悟を決め、私は部長の胸ぐらを掴んだ。

「女子社員虐めも大概にしろよ!」

部長の腰が軽く、椅子から浮く。
いきなり私から怒鳴られ、彼は訳がわかっていないようだった。

「オマエが威張っていられるのは、オマエが偉いからじゃない。
この会社の部長だからだ。
だいたい、オマエごときが人の容姿をバカにできると思っているのか!
この、短足チビで、デブのハゲが!」

一方的に捲したて、部長を突き放す。
彼が椅子からずり落ちると同時に、頭頂部の髪がズレた。

……え、マジでハゲだったの?

そこはただ単に悪口のつもりだったので、ちょっと悪いことをした。

「な、な、な、な、」

私の剣幕に押されたのか、慌てふためきながら彼が椅子に迫り上がってくる。

「お前は、クビだー!」

部長が唾を飛ばしながら叫んだ途端、とうとうカツラが……落ちた。

会社側としてはこれで私をクビにしては醜聞が悪いのと、それなりに私は実績を作っていたので引き留めてきたが、すっぱり辞めた。
あの役員家族の中で唯一の良心である人事部長が、私が辞めるのと引き換えに職場環境の改善を約束してくれたのもある。
とはいえ私が辞めたあと、佳子をはじめとして数人、続いて辞めたと聞いた。



< 5 / 184 >

この作品をシェア

pagetop