溺愛社長の2度目の恋
私の上からじっと、彼が見つめている。

「僕の奥さんなのに他の男と仲良くするような悪い奥さんには、お仕置きが必要だよね?」

「ふぁっ!?」

私の顔に落ちかかる髪を払われ、変な声が漏れた。
これはまるで、さっき読んでいた小説を同じなのでは?
ゆっくりと近づいてくる彼の顔を、ただ見ていた。
もうすぐ唇が触れるというとき、彼の胸元から深里さんとの結婚指環が落ちてくる。
その瞬間、彼が止まった。

「……おふざけでもこういうことはするもんじゃないね」

自嘲するかのよう笑い、有史さんが離れる。
彼が促すから、おとなしく一緒の布団に入った。

「檜垣はいい奴だからオススメだよ。
じゃあ、おやすみ」

有史さんは眼鏡を外して置き、私の背を向けてしまった。

「……おやすみなさい」

もそもそと身体を動かし、私も彼に背を向ける。
さっきの有史さんはまるで、嫉妬しているように見えた。
嫉妬って誰に?
檜垣さんに?
でも、なんで?
私と彼は偽装結婚で、そこに恋だの愛だのない。
それに、有史さんは深里さんを今でも愛しているはずなのだ。
だから、檜垣さんに嫉妬するなんてあり得ない。

……キス、できなかったな。

そっと、自分の唇に触れる。
あのとき、深里さんに邪魔されたように感じた。
なんで私、そんなふうに思っていたんだろう……?
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