自己刑罰

 やっと、小さな声で言えた。
「里美を、殺そうとしたの」
「でも、殺してない」

 どうして、そんな事を言うの。私の目の前に、克己の腕が、白い包帯が有るのに。

「人を殺した思いは、ずっと残るよ」
 なんで。私が問えないうちに、克己は、続けていた。

「そうだよ、君のせいじゃない。
 だから、人を殺しちゃいけない。
自分が奪ってしまった命を背負うのは重いよ」

「そんな子供の頃のことでしょう?」
「ありがとう。
でもオレのせいだ。それは忘れちゃいけなぃって思っている」
「克己のせいじゃないよ」

 いつの間にか、私がそんな事、口にしていた。克己の所為じゃない…なんて。自分の言った言葉に、呆れていた時。

「死んじゃった赤ちゃんは、可哀相だけど。だから、もう、これ以上人の死にかかわっちゃいけないよ」

 私は、驚いた。
 それまで、赤ちゃんが可哀相だなんて思わなかったから。ううん、誰もそんな事言わなかった。

 そうだ。
    本当に。

 親達もみんな、そんな事言わなかった。それが命だとも忘れていた。

 違う。
   感じていない。

 それなのに、すっきりした、なんて思ってた。思ってた、じゃない。

 今も思ってる。

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