誰にも言えない秘密の恋をしました       (君にこの唄を捧ぐ)

渡瀬心菜の生きる道

はぁーー。

心菜は星一つ見えない夜空を見上げ、深いため息を吐いた。

どうして私ってこんなにダメダメなんだろ…。

不甲斐無い自分に嫌気がさす。

大きな瞳から今にも涙が溢れ出そうだ。

大都会の真ん中にそびえ立つ総合病院の屋上。

ここだけが、今の心菜にとって唯一の安らぎの場所だった。

渡瀬 心菜(わたせ ここな)(21歳)

今年の春、看護短大を卒業し4月からこの病院で看護師の仕事を始めた。

同期は他に後5人。
覚えの悪い心菜はきっと1番の落ちこぼれだ。

それなのに…
なんで私が救急なんだろう。

自分のくじ運の悪さに嘆き悲しむ。

身長158センチ。
色白の肌に大きな目は色素の薄い髪と同じ栗色だ。
ストレートに肩まで伸びた髪の毛を1つに束ね、ほわっとしている見た目も相まって、天然癒し系だと周りから言われる。

誰が見ても内科や小児科が合っていると判断するだろう。

それなのに…
なぜ私が…1番忙しくて責任も重い救急なんだろう。

救急ではちょっとしたミスも患者さんにとっては命取りになる。

ついさっき配属されてから初めて採血を頼まれた。

久しぶりの採血とあって、緊張し気持ち力んでしまったところもあった。
焦って針が定まらず、何度か失敗して患者さんの腕にあざをつけてしまったのだ。

自己紹介の時に、唯一の特技は採血だって言わない方が良かったと後悔した…。

採血に自信があったのは単に、子供の頃、
母が亡くなるまで1ヶ月ずっと側に寄り添い、看護師の仕事を見る機会が人より多かったと言うだけだ。

心菜が8歳、兄が11歳の時、最愛の両親が交通事故で亡くなった。
心菜もその時ケガをして3週間ほど母と共に入院した。

父は即死状態だった…。

兄だけは無傷で事なきを経たが、心菜は左足を複雑骨折して、何度も手術をしてやっと退院出来る程の重傷を負った。

今でも、その時の後遺症で少し左足をズルように歩く。

母はと言うと…
頭を強く打ったまま意識不明の重体で、目を覚ます事無く……

どんどん弱っていく姿を心菜は側で見守り続ける事しか出来なかった。

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