誰にも言えない秘密の恋をしました       (君にこの唄を捧ぐ)

北條蓮の生きる道

(蓮side)

変な子だったな…。

先程会った新人看護師を思い出し、フッと笑う。

病院のベッドの上、いろいろな機械に繋がれて身動きも取れずただ眠るのみ。

身体中はあちこちと痛むし、熱も出てきたようだ。何より頭がガンガンとずっと殴られているように痛む。

彼女が置いていった薬と水を睨み、
目の前にあるこの薬さえも、簡単に飲む事が出来ない己の身体に嫌悪感を覚えた。

ああ、頭が割れるように痛いって言うのはこんな感じか…。

自分の事なのに、まるで自分の事じゃ無いような感覚。

そう、もうずっとそんな感じだった。

デビューしてから5年は経っただろうか…

別に本気で歌手になれるとは思っていなかった。
そんな甘い世界じゃない事は分かっていた。

ただ、親が引いたレールの上を走るのに疲れ、自分の運命から逃げ出したかった。

大学進学を機に東京に来て、そこそこ有名な大学に通い、親の仕送りだけでも十分生きていけた。

当初はやっと自由になれたと思っていたが、現実は自由とは程遠く、俺の全ては父親に支配されていた。

大学を出たら父親の会社に就職して、そこそこのポジションを貰い、親の決めた令嬢と結婚する。
そして…いずれは会社を継ぐ。

はたからみたら、羨ましいと思われるような人生かもしれないが…。
 
毎日がつまらなかった。

色褪せたモノトーンの世界でずっと生きていた。

大学を卒業したタイミングでこんな運命から逃げようと思い立つ。

親が追いかけて来れないような場所に行こうと思った。

考え抜いて導き出した答えが芸能界だったのだ。ちょっとした有名人にでもなれば、会社に入れとは言い難くなるだろう。

それには子供の頃からの英才教育が役に立った。

思い立って飛び込んだオーディションで歌いながらピアノを弾いた。

歌が好きかと問われたならば、それほどでも無いと答えるだろう。

ただ、教養の1つとしてピアノを習わされただけに過ぎない。才能があると言われたが、俺の中では計算的に譜面を書いているだけだ。

気付けばトントン拍子にデビューが決まり、
言われるがまま曲を作り、歌う。

曲が売れ始めると、いろんな腹黒い大人が媚びへつらう。嘘ばかりの世界だった。

それでも、いつの間にかファンがついて、俺の名前は世の中に知られるようになった。

親から与えられた運命からは逃れる事は出来たが、街中を自由に歩く事は出来なくなった。

北條蓮と言う名前が独り歩きし始め、俺とは別の人格がマネージメントの手によって作られていった。

俺は俺を演じ、本当の自分を手放した。
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