誰にも言えない秘密の恋をしました       (君にこの唄を捧ぐ)
風呂から出て来た心菜と共にベッドに入る。

もうかなり眠そうだ。

夕飯での会話から、今日は事故で運ばれて来た患者が多かった事。残念ながら助けられ無かった命があった事を知る。

もしかしたら、心菜は自分の両親と重ね合わせたかもしれない。今日は泣きたくて慰めて欲しくて来たのかもしれない。

布団の中、そっと抱きしめて頭を撫ぜる。

このまま、穏やかに眠れると良いが…。

心優しい彼女に救急は辛い部署では無いだろうか…。

何も手を尽くせないまま亡くなって行く人、手を尽くしても亡くなってしまう人もいるだろう。

ただ患者に寄り添い、見守り、手助けする事しか出来ないのだ。

こういう時は気持ちを押し殺すより、泣いた方が次に進めるかもしれない。

そう思い、心菜に話しかける。

「救急は辛い仕事だと思う。
人間は神じゃ無いんだ。助けられ無い命だってある。誰のせいでも無い。もちろん心菜のせいでも無いんだ。」

腕の中で心菜がぐすんと鼻を啜る。

「辛く無いか?
優しい心の心菜には重たい部署だと思うが、大丈夫か?」

そこまで言える立場では無いが…遠目で見ているのも切ない。

ヒックヒックと泣き出す彼女の背中を優しく撫ぜる。

「救えない命があるのは仕方がないって…
救えた…命が、奇跡だったと思うしかないんだって…山田先生が言ってました…。」

その道の一線で戦う医師の言葉は強い。

どのくらい助けれなかったを思うより、どれほど助けられたかを考えるべきだと伝えたいんだろう。

確かにその通りだ。
山田先生か…強敵だな……。

心菜の気持ちに寄り添い慰める事の出来るポジションにいる。
俺がどれだけ想像し、彼女の心に寄り添おうとしたって本物には敵わない。

泣き出す心菜をただ、抱きしめる事しか出来ない自分に不甲斐無さを感じる。
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