誰にも言えない秘密の恋をしました       (君にこの唄を捧ぐ)
「蓮さんの…歌に…励まされ…ました。」
泣きながら心菜が一生懸命伝えようと話してくれる。

「俺の…歌?」

「山田先生が…聴くと良いって…蓮さんの歌、貸してくれたんです…。」

どの歌だろうか…そんな命のやり取りの最前線で、俺の歌なんて役に立つのか?
にわかに信じられない。

「『tomorrow』って…歌。デビュー曲…なんですね……。」

涙で濡れた真っ赤な目を俺に向け、気丈にも微笑みを浮かべる彼女に思わず見惚れる。

「ああ…あれはアルバムにも入れてないから。」

デビューする時、自分の思いを重ねて書いた曲だ。

『 未来はいつだって自分の手の中にある
  明日を信じて、ただがむしゃらに今
  出来る事をやるしか無い。

  もがき苦しむ日々が
  きっと明日の糧となり
  繰り返される毎日が
  いつか生きる事の意味となる。』

そんな歌詞だ…。

それが…最前線で命と向き合う人々に響くなんて…。

それを聞いて俺自身が驚く。

「良い曲でした…不思議と元気が出て…
どうしても、今日、蓮さんに会いたくなったんです。」

そう言ってぎゅっと抱きついて来る心菜に、俺も感極まる。

「俺の拙い歌が、そんな大変な仕事に携わる人達に響くなんて…感無量だ。」

俺も心菜をぎゅっと抱きしめる。
子守唄になればいいと思い、

『tomorrow』を静かに口ずさむ。

ぐすんぐすんと涙を流しながら、それでも微笑みを忘れない。心菜は俺が思っているよりも、本当はもっと強いのかもしれない。

頑張れと、背中を押して歌う事しか出来ないけれど、頑張っている心菜に少しでもエールになっているのなら嬉しい。
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