誰にも言えない秘密の恋をしました       (君にこの唄を捧ぐ)
気持ちを落ち着けなければと、屋上に上がりいつもの白いベンチに座る。

そうしていると、今日の一部始終が走馬灯のように蘇り、どうしようも無く涙が溢れた。

軽傷だとトリアージされていた子の怪我の手当をしていた時に、その子が突然吐血した。

それまで普通に心菜と話しを交わしていたのに…。

先生を呼び急ぎタンカーに乗せて運ぶ。

死因は内蔵破裂による圧迫死。

トリアージの時に見落としがあったのか…。

だけど本当に普通に話せていたから、誰も分からなかったのだ。

誰のせいでも無い。
でも、もし私が気付いてやれていたら…そう思うと悔やんでやまない。

「ここちゃん、見つけた。」

その声に振り向くと、
山田先生がココアとコーヒーの缶を持ってそこに立っていた。

「…お疲れ様です。」
私は慌てて涙を拭いて立ち上がる。

「大丈夫だから座ろう。」
そう言って、山田先生は温かいココアを手渡してくれた。
お礼を言って、ベンチに座り無言で2人で一緒に飲む。

「忙しい1日だった…。」
山田先生が独り言のようにそう呟く。

「もっと早く気付いてあげられてたら…あの子は助かっていたかもしれません…。」

そう言葉にした途端、涙が止めどなく溢れてしまった。
山田先生はしばらく、そっと静かに寄り添ってくれた。

「救えない命があるのは仕方がない。俺達はその時の最前を尽くした。
救えた命が奇跡だったんだ。その命に感謝しよう。」
頭をポンポンと撫ぜてくれた。お陰で心が落ち着き涙を止める事が出来た。
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