誰にも言えない秘密の恋をしました       (君にこの唄を捧ぐ)
そのタイミングで玄関のチャイムが鳴る。

「多分、高遠だ。ちょっと待ってろ。」
そう言って、洗面所に心菜を押し入れ、
玄関に足を向ける。

「よう!有名人。相変わらず忙しそうだな。ご要望のパンケーキにフレンチトースト、自ら運んで来てやったぞ。」

そう言ってやって来たのは、高遠龍二。
このマンションのオーナーで俺の従兄弟でもある。

親に内緒でかくまってやると、この部屋を提供された時、結局親のテリトリーかと思ったが…
それならそれで逆にこっちが利用してやると思って今に至る。

「で?お前のお姫様はどこ?来てるんだろ?」

「会わせる訳ないだろ。お前は親父のスパイだからな。」

「まさか、俺はお前の味方だぞ。」
フッと笑ってほくそ笑む。

心菜の事を知られるのはいささか無粋だが、意思表示の為にも、ここらではっきりした方が良いだろうとも思っている。

「親父に言っとけ。俺は金輪際、親父が当てがう女には会わないって。」

「何言ってるんだ?社長とはこの5年音信不通だろ?」

「お前が連れて来る奴は全部親父からの差金だろうが?俺が何も知らないと思ってたのか?」
心菜に聞こえるとマズいと思い小声で話す。

「お前に良かれと思って紹介してやったんじゃ無いか。このままイイ男が、1人寂しく枯れて行くのを見てるのも辛いと思ってさぁ。
結局、お前は全くなびかなかったじゃ無いか。俺の親切心を無碍にしやがって。」
龍二もつられて小声で話す。

「どうだか。とりあえず、もうそろそろ逃げるのも疲れた。宣戦布告してやる。どっからでもかかって来いって伝えとけ。」

「おいおい。物騒な事言うなよ。親子で全面対決するつもりか?」

「それもアリだと思ってる。
守りたいものが出来たんだ。今までのらりくらりと交わして来たが、ここらで本気でぶつかるべきだと思ってる。」

「マジか…。一人息子に刃向かわれて社長も哀れだな。あっ、これ冷めるといけない。お姫様に持ってて。」

「ああ、ありがとう。」
俺が皿をもらう隙に、龍二が部屋の中を覗ききこむ。。

「こんにちは〜。」
中に向かって挨拶までするから、心菜が洗面所からちょこんと顔を出す。

「来なくていい。」
心菜に慌てて手をかざし、こっちに来るなと制する。

心菜は足を止め龍二にペコリと頭を下げて、その場に佇む。

「何?思ってたよりちょー可愛いじゃん。ああいう感じがお前の好みだったのか⁉︎」

今まで付き合って来た女とはまったく違う事に驚いているんだろうが、そんな事はどうでもいい。
とりあえず、この女たらしの毒牙にかかると心菜が穢れてはいけない。

「もうお前は帰れ、じゃあな。」
外に追いやり玄関のドアを閉める。
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