誰にも言えない秘密の恋をしました       (君にこの唄を捧ぐ)
「こちらにどうぞ。」
チケットを渡した途端、係員に誘導されて入場ゲートから離れた場所に連れて行かれる。

何だ何だ?と兄と2人キョロキョロしながら係員に着いて行く。

「会場まで少しお時間がありますので、こちらでお待ち下さい。」
そう言われて通されたのは12畳程の応接室。

どう言う事!?と、兄と2人顔を見合わせる。

係員が出て行ったのを見計らって、兄がチケットを見せてと言うから渡すと、

「心菜…。このチケットVIP席って書いてある。誰から貰ったんだ!?」

えっ……VIP席?
もらったのは本人からだから…それはちょっと言えないけど…

「えっ…そんな特別席だったの?
全然知らなかった。私、コンサートとか来たの初めてだから良く分からなかったんだけど…。」
そう言って、兄の持つチケットを覗き見る。

本当だ…裏側にVIPの刻印が押されている。

蓮さんそんな事一言も言って無かったから…。
大丈夫なんだろうか、私達がこんな良い席に座ってしまって…急に心配になって来る。

「誰からもらった?お金払ったのか?」

兄はそこが気になるらしく…本当の事を言えない心菜は困ってしまう。

「えっと…仕事でお世話した方が…良かったらってご好意で貰って…。」

「それ…ダメじゃ無いのか?入院した時な箱菓子だって今じゃ渡しちゃいけないって聞いたぞ。」

「えっと…仕事外でもらったと言うか…。」

なんて言えば嘘にならない!?
心菜は必死で考えるけど言葉が見つからない。

しどろもどろになる心菜を兄は怪しみ、腕を組んで見据えて来る。

「心菜、お兄ちゃんは嘘は嫌いだ。何を隠したいのか分からないが、はっきり答えが出るまで待ってやる。
今日は仕方ない、せっかく来たから楽しむぞ。」

そう言って、組んだ腕を外して心菜の頭をポンポンとする。

いっそ言ってしまおうかと思うが…
振られたばかりの傷心の兄に話すのは、とても心が痛いし、心配をかけたく無いと思ってしまう。

「…ごめんなさい。ちょっと頭を整理して後で、ちゃんと話します。」

「分かった。お兄ちゃんは心菜を信じてる。
まぁ、こんな体験なかなか無いから初めてのコンサート、楽しもう。」

元からさっぱりした性格の兄だ。
昔から聞かれたく無い事は聞いて来ないし、深入りもしない。
そんなところが心菜は大好きだった。

「ありがとう、お兄ちゃん。」
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