誰にも言えない秘密の恋をしました       (君にこの唄を捧ぐ)
絡まれたら危ないと思った瞬間、舌打ちと同時に衝動的に足が動く。

「あの!北條蓮さんに似てるって言われませんか?」
斜め背後から突然声を掛けられて、反射的に振り返る。

またかよっ…と、半分呆れながら不機嫌に適当にあしらう。

「でも、凄くスタイル良いですね!背も高いし見上げちゃう。」
二人組の女性はキャーキャーと興奮気味に騒ぎ立てる。

本当勘弁してくれ…
プライベートの全ては心菜との時間に費やしたいんだ。知らない誰かに貴重な時間を削られたく無い。

ため息を吐きながら、
「悪いけど、彼女と待ち合わせなんだ。」
と、捨てゼリフを吐いて振り払い、心菜に向かって足を進める。

そうしている間にも、先程から心菜の様子を見ていた男達が、彼女に話しかけている。

もはや苛立ちを隠せず、彼女に触れようとする瞬間になんとか近付き手を払い落とす。

「気安く触るな!」
彼女を片手で引き寄せコートで隠す。

「あっ…すいません。人違いでした…。」
俺の剣幕に怯んだのか、慌ててそう言って男共は走り去る。

たくっ!俺の心菜に気安く話しかけるな。と、走り去る背中をひと睨みしていると、懐から心菜が不安気に見上げて、

「蓮さん、あ、ありがとう…。」
と言ってくる。
ハッとして浅く息を吐き捨て、気持ちを切り替え心菜の額にキスを落とす。

「ごめん、少し遅れた。」
目線を合わせそっと言う。

今日はクリスマスだ。あいつらのせいで台無しになる所だった。

「大丈夫、まだ時間前だよ。お疲れ様。合わせるの大変だったでしょ。」
彼女は俺を気遣い、未だ心配顔で見上げている。

大丈夫だと安心させ、抱き寄せたままの体勢で歩き出す。

「心菜も、残業にならなくて良かったな。」
そう伝えてフッと笑うと、やっとホッとした顔を見せていつもの彼女に戻る。

「今日はやっぱり人通りが多くて大変だったんじゃない?誰かに見つからなかった?」

職業柄、人に見られるのは慣れているがプライベートで声をかけられるのは、いささか迷惑だ。

しかも勝手にスマホを向けて来る奴だっている。その視線に気付きひと睨みして、足早に彼女を誘導する。

こういう時、北條蓮の性格悪さが丁度良い。
声を掛けにくいだろうし、適当にあしらった所で幻滅される事も無い。

彼女をコートで隠しながら、足早に車の場所まで戻る。

「今日はやたら声かけられるんだ。上手く変装したつもりなのに…。」
とつい、彼女に愚痴をこぼしてしまう。

「蓮さん、普通にしててもカッコよくて目立つから…。そのオーラは消せないよ。」

ふふっと笑う彼女を見ていると、
自分の中の負の感情が浄化されて行くような気がする。
< 218 / 287 >

この作品をシェア

pagetop