誰にも言えない秘密の恋をしました       (この唄を君に捧ぐ)
「えっと…歓迎会の時に少しお話しする機会があって、たまに顔を合わせるとお話しする程度です。
これは…仲が良い範囲に入るのでしょうか?」

逆に蓮に聞いてくるからタチが悪い。

「それは、ただの知り合いの範囲だろ。
心菜の事をここちゃんって呼んでいたから、よっぽど親しい仲なのかと思った。」

内心。彼氏だとか言われたら、はらわたが煮えくり変えるほどの怒りを感じるとこだった。

「何故か年配の先生方にここちゃんって呼ばれる事が多いんです。
高橋さんもきっとそのせいだと思います。」

「馴れ馴れしい男だな。」
蓮がそう呟く。

「高橋さん、患者さんからの評判が凄く良いんですよ。きっと蓮さんの腕も…」

「俺の腕なんか……」
蓮が突然被せ気味に言う。

心菜はハッとして蓮の顔を見上げる。

「俺の腕なんか元通りにならなくても、少しぎこちないぐらいが丁度良い…。」
その、言葉と共に、心菜のお気に入りの場所に辿り着く。

眼下には見渡す限りの夜景が広がる。

丁度、船の先端を思い出させるような造りになっていて、2、3段の階段を登ると360度夜景が見渡せるような、そんな場所だった。

「凄いな…。」
蓮が言葉を無くしたようにそう呟く。

「まるで、この世界を征服した奴が見下ろすような景色だ。」

しばらくの沈黙の後、蓮がそう言う。

心菜が驚いたように蓮を見上げる。

「不思議…蓮さんの目にはそう映るんですね。私にはこの景色を見ていると、この世界は広くて、なんて自分はちっぽけなんだろうって思えてくるんです。

ちっぽけな私の悩みなんてチリみたいなもので、この世界からみたらたいした事無いんだって思えてきて、また頑張れるんです。」
心菜が笑う。

「同じ景色を見ても、まったく違う事を考えるんだな。」
蓮も笑う。
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