誰にも言えない秘密の恋をしました       (君にこの唄を捧ぐ)
「世捨て人か…上手いこと言うな。」
蓮がポツリと言うから、

「蓮さんは凄い人です。みんながあなたの歌を聴いて感動して、共感して、明日も頑張ろって思わせるくらいの力がある人なんです。

私は、そんな蓮さんの歯車になりたいです。
歯車を動かすネジだって構いません。
あなたが自由に歩けるように、手助けしたいんです。だから諦めずに頑張りましょ。」

心菜がにこやかな笑顔を向けて蓮に言う。

「…俺はどこに居ても何をしても、結局誰かに支配されて、敷かれたレールをただ走るだけだ。そこからはみ出す事も、立ち止まる事も許されない。自由なんて何処にもない。」

蓮が悲しそうな目をして、そう訴える。

「空が…あるじゃないですか。
蓮さんの背中には羽根が生えています。
この広い空を自由に羽ばたいて飛べるはずです。何を恐れているんですか?」

心菜が空を見上げる。
蓮もつられて空を見る。

星一つ見えない空に月が輝いている。

「飛べるだろうか?
8メートルから落ちた人間が。」
蓮はハハッと笑い自虐する。

「助走に失敗しただけですよ。
きっと次は大丈夫です。」
にこりと心菜は笑う。

「じゃあ、その時は心菜も手助けしてくれるんだな。俺の歯車の一部になるんだろ?」
蓮が、からかい半分でそう言ってくる。

「分かりました。その時が来たら背中を押してあげますね。」

「一緒に飛ぶんじゃないのか?」

「私、高い所は苦手なんです。」
何だそれ、と蓮が屈託なく笑い出す。

「それに、俺の歌なんて聴いた事もないくせに、やたら絶賛するのは何なんだ?」

確かに、何も知らないくせに大きな事を言ってしまったと、心菜は内心反省する。

「聞いた事はないけど…分かるんです。」

「何だそれ。とりあえず聴いてから助言しろ。」
蓮は可笑しそうに終始笑い、心菜もつられて笑ってしまう。

家に帰ったら怖がってないで、蓮さんの歌、聴いてみよう。心菜はそう心に決めた。
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