誰にも言えない秘密の恋をしました (君にこの唄を捧ぐ)
「ほら、洋子さんきっとプチパニックになってるんだ。
自分の息子の前に、アーティストの北條蓮がわざわざ会いに来てくれた、って思ってるんじゃない?」
はぁ?
普通はアーティストの俺より息子の俺が先だろ。と、突っ込みを入れたくなるのを抑えながら、
「あの、母さん…ちょっともう時間無いから、伝えたい事だけ言わせて欲しい。」
「ええ、何かしら?」
やっと2人の目が合い向き合う。
「何で手術を受けないんですか?」
蓮はストレートにそのまま伝える。
「だって…手術したら体型が変わっちゃうでしょ。お胸は取りたく無いわ。手術したら女として終わりだわ。」
ああ、乳がんなのか…。
蓮は直ぐ察知する。
確かに母は昔から美に関心が強かったから、自分が磨き上げた体系を崩す事を嫌がっているんだと理解する。
「母さん、こう言っちゃなんですが、手術で腫瘍を取ったとしても再建手術があります。これは逆により自分の理想とする体型に近付けるチャンスかも知れないですよ。」
本人の捉えようによっては、プラスになったりマイナスになったりするものだ。
「えっ…?」
母は固まりその言葉の意味を考え始める。
「自分の理想の体型に近づけるのかしら…。
良いわね、それ!」
そう、母は単純で世間知らずで、ある意味ご令嬢と言う呼び名がピッタリの人だ。
そんな母の思考を誘導するのには、意外と簡単な事を蓮は知っている。
「この際、整形手術だと思って受けて見ては?少しぐらいの要望は聞いてくれる筈です。」
蓮はそう話して聞かせる。
「私、手術は怖いものとばかり思っていたけど、新しく綺麗なボディーを手に入れると思えば悪くないわ。」
龍二はその洋子の変わりように唖然として、目が点になる。
「じゃあ、早速担当医に伝えておきますから、言う事聞いて手術受けて下さい。」
「蓮は、私が入院してる間、お見舞いにまた来てくれる?」
「ええ、毎日とは言えませんが、極力来れるようにします。」
「本当⁉︎じゃあ、色紙を用意しておくからサイン頂戴ね。」
母の今の関心は、手術よりもサインらしい。
「…分かりました。」