誰にも言えない秘密の恋をしました       (君にこの唄を捧ぐ)
「すげぇーな、さすが蓮だ。」
龍二が独り言のように呟く。

「じゃあ、主治医にその事伝えておきますので、最短で手術をお願いします。」
蓮は業務事項のように淡々とそう告げて、部屋を去ろうとする。

「あっ…蓮。貴方の大事な人、いつか会ってみたいわ。可愛くて優しそうな子だって聞いたわよ。」

母が微笑みを浮かべそう言うから、蓮は怪訝な顔をして龍二を見る。
こいつは父ではなく母のスパイだったのかと知る。

「俺は見たままを言っただけだよ。変に探りは入れてないから。洋子さんが蓮はどうしてるかって心配してたからさあ。本人の代わりに近況報告してただけだよ。」

蓮はじろりと龍二をひと睨みしてから、

「彼女は今、日本にはいません。
俺のせいで独りで頑張る事を選ばせてしまったんです。必ず迎えに行きたいと思っています。」
と蓮は言う。

「隆さんのせいね…。あの人は息子を自分の思い通りにに動かしたいのよ。だけど、私は自由に生きて来たわ。
大丈夫、きっと分かり合える時が来る筈よ。」

「そうだと良いんですけど…。」
蓮は苦笑いして、軽くため息を吐く。


ここで面会時間終了の音楽が鳴り響く。

「洋子さん、何か必要な物があったら連絡ください。直ぐに伺いますので、」
龍二がコンビニで買った和菓子を渡して、にこりと笑ってそう母を気遣う。

蓮は、そう言えば昔から龍二は母にベタベタだったなと思い出す。

龍二の家は両親が離婚しているから、きっと母親のように思っているところもあるのだろう。

「では、また来ます。養生して下さい。」
蓮はそう言って頭を下げて病室を後にした。
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