誰にも言えない秘密の恋をしました       (君にこの唄を捧ぐ)
そして、まだ伝えなければいけない事があると、蓮は気持ちを整えて、突然片膝を付き心菜の前に跪く。

それはまるで、映画によく見るワンシーンのようで、周りで事の行方を見守っていた人々が騒つき始める。

「心菜、こんな俺で良ければ結婚してくれないか?」

蓮が下から心菜を見上げ、ポケットから高級そうなベルベットの箱を取り出し、蓋を開けて捧げる。

心菜はもう既に、胸が一杯で涙で蓮の顔さえも見えない。
だけど、蓮の掌に輝く輝きがどんな意味をなしているのか、分からない訳がない。

「…はい、こんな私で良ければ、よろしく、お願いします。」

震える声で、だけどしっかりと返事をする。

蓮は心底ホッとして、心菜の左手を取り箱から指輪を取り出して優しくはめる。

それはクリスマスプレゼントでもらった、ネックレスを使った婚約指輪だった。

心菜は自分の手をかざし、ネックレスの時よりも倍、輝きを増た指輪を見つめる。

「ありがとう、ございます。大事にします。」
涙を振り切って、満面の笑みを蓮に向ける。

蓮も立ち上がり心菜を優しく抱きしめた。

この成り行きを見守っていた人々も、拍手喝采で祝福の言葉が飛び交う。

蓮は何気なく手を上げそれに応える。
心菜はと言うと、我に帰り恥ずかしさに俯いてしまう。

そして、大事な事に気付く。

「ちょっと、待って…蓮さん、お仕事は!?
こんなところまで来ちゃって大丈夫なんですか!?」

心菜は慌てて聞く。

毎日多忙な蓮のスケジュールを知っているから、こんな場所まで来れる程の休みは不可能だろうと思う。

「大丈夫だ。独立したんだ。
心配しなくても、入っていた仕事は全てこなして来た。」

「個人事務所を立ち上げたんですか?」

「ああ、今は1ヶ月休養中だ。
心菜を連れて帰るまで、ずっと休むつもりでいる。」
真顔で応える蓮を見つめ、

「それじゃあ、早く帰らないと。」
と、心菜が太陽のような笑顔を見せて笑う。
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