誰にも言えない秘密の恋をしました       (君にこの唄を捧ぐ)
「あの…ここちゃんを誑かす(たぶらかす)のはやめて頂けませんか?彼女は本当に良い子なんです。
あなたみたいな、芸能人とは無縁の素朴な子なんです。振り回さ無いで頂きたい。」
高橋は半ばムキになって言う。

「振り回してるつもりも、誑かしてるつもりも無いが。彼女は彼女の意思でここに居る。君にとやかく言われる権利は無い。」

スパッと容赦無く切っていく感じが、啓太の心を抉(えぐ)る。

患者様は神様です、とまでは言わないが
啓太の立場上、事を大きくする事は出来無い。この病院の御曹司であり、ゆくゆくは親の後を継ぐ身だ。

この男から彼女を離す良い手立てはないものか…。

「一般人とのスキャンダルはあまり印象が良く無いのでは?あなたの為にも、ここちゃんは僕が連れて帰ります。」
啓太は強くそう言って、心菜に近付こうとする。

ここで始めて蓮が立ち上がり、啓太の行く手を遮る。

「高橋さん、あなたは心菜の何なんだ。彼女は顔見知り程度だと言っていた。
彼女を彼女の意思なくして連れ去るのは良くないのでは。」

2人、数秒睨み合う。

「分かりました。ちょっと病院側と相談して来ます。」
啓太は踵を返してせかせかと病室を去って行った。

蓮はその後ろ姿を睨みつけながら、心菜を憐れむ。
これは…心菜もこの先大変だな…。

確かに蓮だって心菜を囲う権利は無い。

彼女でも無ければ身内でも無い。
それでも何故だか、彼女を守らなければと本能が叫ぶ。
< 29 / 287 >

この作品をシェア

pagetop