誰にも言えない秘密の恋をしました (君にこの唄を捧ぐ)
入院3週間目に入ると、蓮の運動能力がぐんと上がってくる。
右足もテーピングが取れ、一見普通に歩いている様に見えるし、右手も握力が戻りつつある。
事務所からは運動器具が持ち込まれ、暇な時は筋力トレーニングに余念がない。
「やっぱり若いって良いね。」
担当医はそう言って、今週金曜日の退院を保証した。
蓮は1人思う。
心菜とは後、5日。
今日も朝から元気に日課の仕事をこなし、太陽のような眩しい笑顔を見せてくれている。
この笑顔を目に焼き付けて行こう。
退院したらもう2度会う事はないだろう。
そう思うと、虚しさと寂しさが訳もなく襲って来て胸が痛む。
心菜を無意識に目で追い続ける。
そんな蓮を見て、心菜は心配になる。
「蓮さん、どうしたんですか?
今日はいつもに増して口数が少ないですね。
何か考え事ですか?
私で良かったら相談に乗りますよ。」
心菜が不思議そうに蓮を見てくる。
熱も平熱、血圧も正常位を示している。
体調的には問題無さそうなのに、何処となく元気が無いように感じる。
「ただ、作詞で煮詰まっているだけだ。」
蓮はベッドの上でゴロンと転がる。
芸能人は大変だなぁ。と、心菜は思う。
今日も朝からテレビのワイドショーで、蓮の退院の事が話題になっていた。
それによると延期になっていたコンサートツアーも、再来週から再スタートするようだ。
きっと、心菜の想像も出来ないほど多忙な毎日が待っているのだろう。
「コンサートツアー再開されるんですね。」
心菜が何気無く聞く。
「ああ、テレビを観たのか?」
蓮が答える。
「再来週からって早すぎませんか?
身体は良くなったかもしれませんが、脳の方のダメージは結構忘れた頃に来る事もあるので、くれぐれも無茶しないように気をつけて下さいね。」
蓮の身体を心配して、つい母親のような事を言ってしまう。
『お前は俺の母親か。』いつもならそう言い返して来るのに…
「そうだな…。」
と、呟くだけで反応が薄い。
既に復帰後に向けていろいろ模索しているのかも知れない。
考えの邪魔になってはいけないと、心菜は遠慮して部屋を出ようとする。
すると、唐突に腕をぎゅっと掴まれてびっくりする。
「えっ!?」
「何処に行く?」
蓮が心配顔で視線をよこしてくる。
「あっ、花瓶の花の水替えに行こうと思って。」
「そこの洗面台でやれば良い。」
そう言って、部屋から出るのを止められる。
「考え事のお邪魔になりませんか?」
「大丈夫だ。」
フッと笑って頭をポンポンと撫ぜてくる。
完全に子供扱いだ。
歳の差は分かっていたつもりだけど、心菜としては少し面白く無い。
「ちょっと、ハンドソープを切らしているので買いに行って来ます。何か他に欲しい物はありますか?」
今度は正当な理由で部屋を出ようとする。
「俺も一緒に行く。」
すかさず蓮はそう言って、財布を片手に既に行く気になっている。
「大丈夫ですか?
こんな朝に下に降りちゃって。
午前中は外来患者が多いですし…たちまち人が押し寄せるのが目に見えます。」
「案外、人混みに紛れた方が見つかり難い事もある。」
そう言う蓮は、変装用のメガネもマスクも持たないまま、素の状態で部屋を出ようとしているから、心菜は慌ててキャップだけ手に持ち後を追う。
「心配症だな。
見つかったら走って逃げばいい。もうそのぐらいの体力は戻ってる。」
本当にはたから見たら、事故にあったばかりの人とは、到底思えないほどの回復ぶりだ。
右足もテーピングが取れ、一見普通に歩いている様に見えるし、右手も握力が戻りつつある。
事務所からは運動器具が持ち込まれ、暇な時は筋力トレーニングに余念がない。
「やっぱり若いって良いね。」
担当医はそう言って、今週金曜日の退院を保証した。
蓮は1人思う。
心菜とは後、5日。
今日も朝から元気に日課の仕事をこなし、太陽のような眩しい笑顔を見せてくれている。
この笑顔を目に焼き付けて行こう。
退院したらもう2度会う事はないだろう。
そう思うと、虚しさと寂しさが訳もなく襲って来て胸が痛む。
心菜を無意識に目で追い続ける。
そんな蓮を見て、心菜は心配になる。
「蓮さん、どうしたんですか?
今日はいつもに増して口数が少ないですね。
何か考え事ですか?
私で良かったら相談に乗りますよ。」
心菜が不思議そうに蓮を見てくる。
熱も平熱、血圧も正常位を示している。
体調的には問題無さそうなのに、何処となく元気が無いように感じる。
「ただ、作詞で煮詰まっているだけだ。」
蓮はベッドの上でゴロンと転がる。
芸能人は大変だなぁ。と、心菜は思う。
今日も朝からテレビのワイドショーで、蓮の退院の事が話題になっていた。
それによると延期になっていたコンサートツアーも、再来週から再スタートするようだ。
きっと、心菜の想像も出来ないほど多忙な毎日が待っているのだろう。
「コンサートツアー再開されるんですね。」
心菜が何気無く聞く。
「ああ、テレビを観たのか?」
蓮が答える。
「再来週からって早すぎませんか?
身体は良くなったかもしれませんが、脳の方のダメージは結構忘れた頃に来る事もあるので、くれぐれも無茶しないように気をつけて下さいね。」
蓮の身体を心配して、つい母親のような事を言ってしまう。
『お前は俺の母親か。』いつもならそう言い返して来るのに…
「そうだな…。」
と、呟くだけで反応が薄い。
既に復帰後に向けていろいろ模索しているのかも知れない。
考えの邪魔になってはいけないと、心菜は遠慮して部屋を出ようとする。
すると、唐突に腕をぎゅっと掴まれてびっくりする。
「えっ!?」
「何処に行く?」
蓮が心配顔で視線をよこしてくる。
「あっ、花瓶の花の水替えに行こうと思って。」
「そこの洗面台でやれば良い。」
そう言って、部屋から出るのを止められる。
「考え事のお邪魔になりませんか?」
「大丈夫だ。」
フッと笑って頭をポンポンと撫ぜてくる。
完全に子供扱いだ。
歳の差は分かっていたつもりだけど、心菜としては少し面白く無い。
「ちょっと、ハンドソープを切らしているので買いに行って来ます。何か他に欲しい物はありますか?」
今度は正当な理由で部屋を出ようとする。
「俺も一緒に行く。」
すかさず蓮はそう言って、財布を片手に既に行く気になっている。
「大丈夫ですか?
こんな朝に下に降りちゃって。
午前中は外来患者が多いですし…たちまち人が押し寄せるのが目に見えます。」
「案外、人混みに紛れた方が見つかり難い事もある。」
そう言う蓮は、変装用のメガネもマスクも持たないまま、素の状態で部屋を出ようとしているから、心菜は慌ててキャップだけ手に持ち後を追う。
「心配症だな。
見つかったら走って逃げばいい。もうそのぐらいの体力は戻ってる。」
本当にはたから見たら、事故にあったばかりの人とは、到底思えないほどの回復ぶりだ。