誰にも言えない秘密の恋をしました       (君にこの唄を捧ぐ)

心菜の日常

(心菜side)
 
次の日からまた、救急外来に戻り忙しい日々となる。

蓮さんが退院して直ぐに出た週刊誌に、私が写っていると、高山先輩がわざわざそれをコンビニから買って来てくれた。

「これって…この病院の中庭じゃない?」
高山先輩と山田先生がその週刊誌を囲み見て、そう話している。

「ねぇ?心菜ちゃん、北條蓮と中庭でお昼食べた事ある?」
そう山田先生から声をかけられて、私も思わず覗き込む。

「はい。一度だけ…
あの時、撮られてたんですね。
遠巻きで見られてる感じがしたので、早く病室に戻りたかったのに、蓮さんが食べて行くって言い出すから…。」

記事を読めば、
『入院中の大スターの横暴な態度』
と書かれていて、

その写真には私が片手に空のコーヒー缶を持ち、片手にサンドイッチを持っていて、その隣に優雅にサンドイッチを食べている蓮さんの姿が映し出されている。

私の目は黒線で隠されて一応の配慮されているが、見る人が見れば直ぐに私だって分かるだろう。

ああ、あの時ワザと撮らせる為にあの場所を選び、ゆっくりとサンドイッチを食べていたんだ。

どう見ても普段の蓮さんとはかけ離れていて不自然な態度だった。

だって、普段だったら飲んだ缶は直ぐに自分で捨てに行くし、どんな小さな事だって自分のリハビリにならないからと、手伝う事を拒んでいた。

そんな人が、あの時だけは全て私に頼んで来たから、どうしたんだろうと違和感を感じた。

後から山田師長から、
私が病院内で妬みや恨みの対象にならないようにと、病院長に頼まれて泣く泣く蓮さんのお世話係になったと言う噂を流してくれたと言っていた。

彼は彼で、北條蓮は我儘で人使いが荒い。
そう言うイメージを作りたかったのだろうか。

山田師長が作ってくれたその噂を真実にする為、自から悪者になって、自分自身のイメージを悪くしてでも私を守る為に、この記事を書かせたんだ。

なんで不器用で優しい人なんだろう。

そう思うだけで涙が出そうになってしまう。

最後のお別れの時、
その場をなかなか離れる事が出来ずにいた私は、太陽が沈むまでずっとベンチに座っていた。

涙が止まらなかった。

3週間、ほとんどの時間を一緒にいたから
寂しく感じてしまったのか…
自分自身の感情がよく分からない。

私は看護師で蓮さんは患者なのだから、決してプライベートでは交わらない点と点でいなければいけない。

あまり1人の患者だけに手をかけてはいけないと、山田師長から言われていた事を思い出した。

手をかければかけるほど、情が移り別れが辛くなってしまうからと。

退院ならばまだ良い。

病院の別れには、本当の別れだってある。
もし目をかけていた患者が亡くなった時、これほど辛い別れはないだろう。

だから、出来るだけ平等に、あくまで仕事だと割り切って、自分自身のプライベートとはかけ離して考えなきゃいけないんだと実感した。
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