誰にも言えない秘密の恋をしました       (君にこの唄を捧ぐ)

「すいません。今、担当医が救急に呼ばれていて、もう直ぐ戻って来ますので少々お待ちください。」
看護師が申し訳けなさそうに出て来てそう言われる。

「こちらもタイトなスケジュールを押して来てるんです。出来るだけ早くして下さい。」
マネージャーが苛立ち、看護師にそう抗議しする。

俺はというと、緊急なんだから仕方ないだろうと気にも止めず、近くにある待合いのソファーに座り2人を傍観する。

ふと思い、窓から中庭を見下ろす。

遅い昼食を取る病院スタッフが数人、ベンチで休憩をしている姿が見える。

気付くとその中に、心菜がいないかと無意識に探してしまう自分がいる。

救急外来の服は確か…青色だった。

他の看護師は白だったり淡いピンクだったりするから、青は一瞬で見分けが付く。

この病院の中だけで何百人と働いているだろうし、そんな都合良く会える訳ないか…。

諦めと共にフッと軽くため息を吐く。

「今、先生にお願いして、数分こちらに来てもらうようにしましたので、もう少々お待ちください。」

救急が優先だろうと思うのに、こう言う時押しの強いマネージャーは、何が何でも自分を優先したがる。

俺が、わがままで横暴な態度だと言うレッテルを貼られたのは、間違えなくコイツのせいだ。

「すいません。少しぐらい待ちます。」
取り次いでくれた看護師にそう伝える。

しばらくすると、廊下の向こう側から白衣を着た担当医と、青色の制服を着た看護師が1人
パタパタと足速に駆けつけて来るのが見える。

看護師は何やら医師からの指示を仰ぐ為、歩きながら会話を交わし熱心にメモを取っているようだ。

緊急患者を差し置いて、駆けつけてもらったようで申し訳ない気持ちになる。
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