誰にも言えない秘密の恋をしました       (君にこの唄を捧ぐ)
(蓮side)

彼女のひんやりとした細い指が俺の耳下から首に沿ってそっと触れてくる。リンパの腫れを確かめている様だ。

それから、
前髪を避けてこめかみを両手でそっと押す。
ズキンと響く痛みはあるが、さっきよりも不思議と今は痛みは少ない。

目の下を優しく押され裏瞼を確認する。

薄暗い街灯が一つあるだけだから、よく見えないのか凄く近い距離まで彼女が近付く。

これは…キスが出来る…距離だな…

そう思うと、否応無くドクンドクンと身体中が脈を打ち始めるから、自分で自分を制御出来なくなるのでは無いかと……不安を覚える。

「少し、貧血っぽい感じがありますけど、3食ちゃんと食べられてますか?」

仕事モードになった彼女は、普段のふんわりとした雰囲気よりも、ビシッとした印象になるから、いつ見ても気持ちが良いなと思っていた。

「朝はコーヒーだけだ。昼は弁当で、
夜は…弁当を半分食べ損ねた。」
素直に今日の食事を明かす。

「鉄分の含まれた、ほうれん草とか卵を意識して食べた方が良いと思います。あと、運動量に比べて摂取量が少ない気がします。
…体重少し落ちていませんか?」

周囲の誰も見抜かなかったのに凄いな…。
看護師の目は誤魔化せない。

「確かに…食欲がなくて以前より量は落ちた気がする。」

「とりあえず、必要な栄養分はサプリメントで摂った方が良いかも知れません。
疲れている様に見えますし、もしかして睡眠もあまり取れていませんか?」

いちいち見抜いてくるから目を見開き驚く。

「ここ最近、なかなか寝付けない日々が続いている。」

「そうなんですね…。
もし1カ月以上続く様なら、睡眠導入剤を処方してもらう事を考えた方が良いかも知れません。」
心配そうな顔の彼女が目の前に、俺の手の届く範囲にいる。
…触れる事は許されるのだろうか。

彼女の色素の薄い瞳を見つめる。

理性が本能に負けてしまいそうだ。

「あっ。水分取った方が良いと思います。汗かきましたしちょっと買って来ますね。」
彼女がサッと前から居なくなってしまう。

宙に浮いた両手が所在を無くしぎゅっと握り締める。

俺は、何をしようとしていた?
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