誰にも言えない秘密の恋をしました (君にこの唄を捧ぐ)
このままでは、本能を制御出来なくなりそうだ。
距離を取らなければと思うのに、自動販売機に向かう彼女の背を見つめ、どうしようも無く抱きしめたいと思ってしまう。
「これ、飲んで下さい。」
にこりと笑顔を見せて、スポーツ飲料を渡してくる。
「ありがとう。悪いな。何も持って無くて…。」
衝動的に降りた手前、何も持ち合わせていない。かっこ悪いな…と苦笑いする。
「気にしないで下さい。
だって、入院中はいろいろ奢って頂きましたし、お返しさせて下さい。」
「このお返しは後でさせてもらうから。」
「そしたらまた、お返ししないといけなくなちゃうじゃないですか。」
彼女が笑って言ってくる。
「それじゃあ、堂々巡りだな。」
俺も笑う。
ペットボトルを開け一気に水分を流し込む。
身体中に染み渡る。
こんなにもスポーツ飲料が美味いと思った事は今までない。
「美味いな…。」
つい呟くと、
「きっと身体が欲してたんですね。
お腹は?お腹は空いてませんか?」
ここ数日は食欲が無かったから、空腹をあまり感じなかったのだが、そう言われると不思議と腹が減ってくる。
しかし、これ以上奢られる訳にはいかない。
大丈夫だと告げようとするより数秒早く、
「あっ、あそこにコンビニがあります。ちょっと行って来ますね。待ってて下さい。」
俺から離れて行こうとする。
こんな夜に1人でコンビニになんて行かせられない。
俺もキャップを深く被り、彼女の後ろをついて行く。
「えっ?蓮さん、目立つから待ってて下さい。バレちゃったら大騒ぎになってしまいます。」
振り返ってそう言ってくる。
「堂々としていた方が意外と分からない。」
そう言う俺を見上げて心配そうな彼女を尻目に先を歩く。
コンビニに久しぶりに入る。
無気力な毎日に物欲さえも無くしていた。
しかし…財布が無いと言うのは致命的だな。
あれこれ食べたいと思う気持ちが湧き出てくるのに、金が無いから手を出せない。
「食べたい物どんどん入れて下さい。
あっ、プリンとかどうですか?消化に良くて胃に優しいものが良いと思います。」
誰かと一緒に買い物をすると言うのは楽しいものなんだな。
当たり前の事を俺は今までして来なかった事を思い知らされる。
おにぎりの具は何が好きですか?
甘い物よりしょっぱい物が好きですか?
鶏肉と豚肉だったら?
彼女の質問に淡々と答えながら、店内を一通り回る。