誰にも言えない秘密の恋をしました       (君にこの唄を捧ぐ)

「蓮さん、今夜良かったら家に泊まりませんか?」

エッ!?
突然、衝撃的な質問につい足を止め彼女を見入る。

「だって…何もかも置いてきたって事は、お家の鍵も無いって事ですよね。今夜寝るところ、困るんじゃないですか?」

「俺が…泊まっていいのか?」
信じられない言葉を聞いて再度確認してしまう。

俺だってただの男だ。
そんな簡単に泊めていいのか?

彼女の善意はありがたいが…実は家は歩いて帰れる距離にある。
コンシェルジュもいるから部屋の鍵は別に困らない。

だが…彼女の部屋に行くなんて、こんなチャンスをみすみす逃す訳にもいかない。

いや…しかし行ったところで、何もしないでいられるのか?

もう2度と会わないと思っていたのに、それでも会いたいと思う気持ちを無理やり抑え、忘れようと忘れなければならないと、思い続けた相手が今、目の前にいる。

出来ればもう少し一緒にいたい。

これは不可抗力だ…。

「蓮さんをこのまま置いて帰る事なんて出来ません。」
彼女の意思は固い。

彼女からしてみれば、何も持たない哀れな男を助けようとする慈善活動でしかないのだ。

「じゃあ…。」
迷いの中で言葉を絞りだす。

「良かった。そしたら下着とか必要な物カゴに入れて下さい。」
ホッとした顔を向けられ、

思考を止めた俺は流されるまま必要な物を入れて行く。
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