誰にも言えない秘密の恋をしました       (君にこの唄を捧ぐ)
どうしてだろうか?

北條は思う。
彼女の優しい声がそうさせるのか、確かに身体はあちこち痛むし、コンサートもツアーが始まったばかりでこれからの事を考えると…大変そうだ。

怪我の事だって、マスコミもきっと既に気付いて、今頃騒ぎになっているかもしれない。

なのに…
何故だか俺の心はフラットで、波風立てずに穏やかなままだ。

彼女が醸し出す、フワッとした空気感がそうさせるのだろうか。

声質も穏やかでずっと聞いていたいと思うほど癒される。

「ずっと、走り続けて来たから、きっと…
ここらで休めって言われてるのかも…しれないな。」
北條がポツリとそう言うから、

「前向きなお考え、立派です。」

咄嗟になんて答えたら良いか分からず、
年上の大人の男の人に対して立派だなんて言ってしまう。

「あっ、すいません。私みたいな小娘から立派だなんて言われても嬉しくないですよね。」
慌てて苦笑いして訂正する。

それなのに、
北條は気にも留めないと言う風にフッと笑い、

「君の、その天然な感じ嫌いじゃない。」
と、さらりと言うから、心菜の心臓はドキンっと跳ねて、あらぬ方向に目線が泳ぐ。

イケメンはこれだから心臓に悪い…
心菜はそう思いながら、平常心を取り戻そうと点滴をチェックしながら呼吸を整える。

特別貴賓室に到着して、扉を開けて中に入る。
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