誰にも言えない秘密の恋をしました (君にこの唄を捧ぐ)
麦茶をそそいでいる間に、心菜の部屋を見渡していた蓮の目に一枚の写真が目に止まる。
家族写真だろうか?
小学生くらいの男女と両親4人の写真だ。
この小さい方が心菜だな。
そう思って何気なく手に取って見ていると、
「それが、最後の家族写真なんです。」
と、心菜が言う。
ああ…そうか…祖父に育てられたと言っていた。
カタンと写真を棚に戻し、おとなしくソファーに戻る。
「隣にいるのはお兄さん?」
「はい。
両親は私が10歳の頃に交通事故で亡くなりました。私もその時怪我をして…蓮さんみたいに脳震盪になったんです。
だから、頭が痛そうにしている蓮さんの事、放っておけなくて…。」
「今も…頭が痛くなる?」
静かにそっと蓮が聞く。
「今は季節の変わり目くらいに少し疼くだけです。」
フワッと笑う心菜を、蓮はどうにかして抱きしめたいと思ってしまう。
「いろいろ苦労してるんだな。」
「蓮さんにはきっと及びませんよ。」
「俺は言うほど苦労はしてない…
むしろ恵まれていた方だ。
そこから逃げたのは俺のわがままみたいなものだし、この音楽も単に子供の頃の習い事の一つに過ぎない。」
蓮の自己否定感は相変わらずだ。
なのに自信も才能も溢れている。このチグハグな感じがファンを魅了して止まないのだ。
「それでも、ここまで上り詰めたんですから凄いですよ。もっと俺様な自信家になってもおかしく無いのに、変なところに謙虚ですよね。」
心菜が笑う。
「子供の頃の俺は自信家で俺様の嫌な奴だったと思うよ。」
苦笑いして蓮が言う。
「自分の進むべき道に疑問を感じて、抗いたくなったんだ。だけど結局逃げたところで、何も無かったから仕方なく音楽を。
俺にとっては手段でしか無くて、本当になりたかった自分とは違うと今となって思う。」