誰にも言えない秘密の恋をしました (君にこの唄を捧ぐ)
始めて、蓮が心の奥底を見せてくれてると心菜は思う。
「その点、心菜はなりたい自分になれているだろ。それだけで凄いと思う。
どう在りたいのかも分からない俺なんかより、よっぽど誠実で真っ当な生き方だ。」
そう、言ってくる。
「才能がある人はきっと一握りしかいないんです。どんなに努力したって蓮さんみたいになれない人も沢山いるから…。
もっと誇るべきですよ。その才能を。」
心菜の考えに沢山の人が頷くはずだ。
それなのに蓮は、
「俺は普通でいたかったんだ。
普通に満員電車に揺られる。そう言う当たり前の事がもっとしたかった。
だから、ありがとう。
今夜は心菜のお陰で楽しめた。」
だから、あんなに嬉しそうだったんだ。
不思議な人。
人を惹きつける才能も魅力もあって、カリスマ性も十分あるのに、普通でいたいと言う。
「無い物ねだりですよ、蓮さんは。
きっとバチが当たっちゃいますよ。」
気休め半分に心菜は言うのに、
「そうだな…バチが当たったのかもしれない。」
そう蓮が言う。
1番欲しいものを見つけたのに、手に入れる事が出来ない。もがき苦しみ夢にまで見る。
手放せば楽になるのにそれすらも出来なくて…また手を伸ばしてしまう。
「蓮さんは…何をそんなに苦しんでいるんですか?」
蓮には、心菜には分からない悩みがある事だけは分かる。
だけど、そこから救ってあげる事は出来ないのだろうか。
「私に何か…出来る事はありますか?」
黙ってしまった蓮に問う。
「君を…巻き込みたくは無い。」
そう言ってじっと見つめられるから、なぜだか泣きそうになってしまう。
「あっ、明日早いんですよね。
私、お風呂の支度してきます。」
気持ちを断ち切るように心菜は立ち上がり、
風呂場に行く。