誰にも言えない秘密の恋をしました       (君にこの唄を捧ぐ)
先に蓮に風呂に入ってもらい、その間に小さなテーブルを動かして布団を敷く。

これはちょっと近過ぎない…?

友達が泊まりに来る時はベッドのすぐ横に敷いていたけれど、蓮とは友達では無いんだから…今の2人の関係は何と呼ぶのだろう?

心菜はそう思い、どこに敷こうか再度、思案する。

あいにく部屋はひと部屋しかないから、
出来るだけ隅っこの方で寝よう。

ソファとテーブルを真ん中にして、クローゼットの前に布団を動かす。

うん。ここが良い。
心菜は1人納得する。

朝が来たら蓮さんはこの部屋を出て行く。

私はその背中をそっと押してあげる事しか出来ない。
また、…いちファンに戻るだけ。
ただの日常に戻るだけだ。

そう、自分に言い聞かせる。


しばらくすると蓮が、コンビニで買ったTシャツと、兄が置いていった紺色のスウェットズボンを履いて風呂場から出て来た。

少し膝丈が短くて窮屈そうだけど、
イケメンは何を着てもサマになってしまう。

そう思うだけで、心菜の心臓はいちいちドキドキと高鳴るから困ってしまう。

蓮はそんな心菜の心に気付く事も無く、
ベッドと布団を見比べて、不自然ほどの距離感にフッと笑う。

「一応、警戒心はあったんだな。」
そう言って頭をタオルでゴシゴシと拭く。

「蓮さんはベッドを使って下さい。私は何処でも寝れるので。」

心菜はパタパタと、ドライヤーを洗面台から取ってきて蓮に渡す。

「お風呂に入ってきますので、気にせず先に寝てくださいね。
明日は何時に起こせば良いですか?」

今、同じ空間にいてはいけない気がする。

やたら大人の色気を醸し出す蓮を見ないように用件だけを口早に話す。

そのタイミングで蓮がぎゅっと心菜の手首を掴んでくるから、思わずビクッとしてしまう。

「これ、男物だよな、なんで?」

スウェットを指差し鋭い目で見てくるから、

「あっ、兄のです。
ちょっと小さいかもしれませんが…それしか無くて、すいません。」

「ああ…お兄さんの…。」

スッと手首を離してくれたのでホッとする。
< 72 / 287 >

この作品をシェア

pagetop