誰にも言えない秘密の恋をしました       (君にこの唄を捧ぐ)

これは夢か現実か…

昨夜から夢を見ているような浮遊感の中、それでも現実を見据えてこんな気持ちのままではいけないと、心菜は1人自問自答を繰り返す。

とりあえず、蓮にこれ以上迷惑をかける訳にはいかないと思う。

出来るだけ早く帰らなければ…。

それから、言われるままに椅子に座ると、ガラスのダイニングテーブルの上に、ホテルの朝食かのようなオシャレな朝食が並ぶ。

心菜は向かいあって座る蓮をチラッと垣間見て、本物だよね?と再確認する。

聞きたい事は山のようにあるけど、聞いていいのか分からない。

だって彼は世の中の誰もが知るアーティストなのだ。
プライベートは出来るだけ守りたいだろうし、守るべきなのだ。

意識が無かったとは言え、彼の自宅に入り込んでしまった手前、目にする全ては秘密な部分なのだから、誰にも口外してはいけないと硬く誓う。

にしても、なんなのこのセレブ感は…

この、リビングダイニングだって、心菜の部屋が何個入れば気が済むんだろう広さだし…

あんな狭い部屋に以前蓮を泊めてしまった事を深く後悔する。

あの日の朝は、新幹線に乗ってコンサート会場に向かう蓮の為、朝食にと渡したおにぎりもこの朝食に比べたらなんて、みすぼらしい事だろう。

「れ、蓮さん。ここはホテルか何かですか?朝からなぜこんな豪華な朝食が?」

戸惑い気味に心菜は聞く。

「心配しなくても俺の家だ。
あいにく、自炊が出来なくて知り合いに頼んで朝食を用意した。
前に心菜から言われて、俺もあれからちゃんと朝食も食べるようにしてるんだ。」

に、しても豪華すぎる…
テレビに出る人は住んでる世界がやっぱり違うんだ。心菜は今までよりも蓮がずーっと遠に感じて寂しくなる。

「そう…なんですね。
顔色も良さそうで良かったです。」

何て…おこがましいの私…。
そんな生活指導みたいな事、こんな凄い人にしてたんだと、居た堪れない気持ちになる。

「そう言う心菜は顔色が良く無い。仕事忙しいのか?」
逆に指摘されてしまい恥ずかしくなる。

「多分、昨日、慣れないお酒を飲んだせいかもです。」
小声でそう言う。
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