麗しの旦那様、私の愛は重すぎですか?
ターゲット層が望むものを見抜くマーケティングの仕事は、卓越した情報収集能力とそれを活用する頭脳が必要とされる。
潜在的なニーズを製品に落とし込み、ターゲット層に届くよう最適な手段で宣伝する。
簡単なようでこれがなかなか難しい。
暁成は二年前、広告代理店からヘッドハンティングされ、櫻子が働く純華堂にやって来た。
若くして部長待遇。最初こそやっかみがあったものの、暁成の優秀さはすぐに誰もが認めるところになった。
暁成が転職してすぐ営業部と共同でリニューアルを企画、提案した『ライクス』という男性向けコスメシリーズは各所で話題になり、飛ぶように売れたのだ。
リニューアル前と比較すると、売上高は三倍にまで膨れ上がり、今では純華堂の主力製品の一翼を担っている。
比類のない実績を作り上げた将来有望な暁成と、才色兼備の呼び声も高い櫻子の結婚は、多くの人から温かく迎えられた。
――ひとりを除いて。
「櫻子センパーイ、これもお願いします。私、とーっても忙しくってえ!」
件の人物は暁成が会議で離席している時を見計らったかのように、櫻子の元を訪れた。
またかと、部内から注目が集まっていく。
「ええ、いいわよ」
「明日の定例会議で必要なんで、なる早で!」
志摩ありすはぬけぬけとそう言うと、定例会議で必要な各製品の売上推移の資料を櫻子のデスクに置いていった。