麗しの旦那様、私の愛は重すぎですか?

 本来なら定例会議の資料作りは、若手の社員が持ち回りで担当することになっている。
 エンドユーザーの動向を知り、的確な分析力を養うのが目的だ。
 志摩は暁成の直属の部下のひとりであり、まだ入社二年目の若手社員。
 目がクリっとした可愛らしいベビーフェイスからは、想像もつかない高慢な態度だ。
 本来なら主任の櫻子に大手を振って資料作りを押しつけられる立場にない。

「櫻子さん、私がやりましょうか?」
「いいえ。これくらい平気よ」

 弓塚が手伝いを買って出てくれたが、櫻子は断った。
 志摩の露骨な嫌がらせなど、櫻子にとっては何の支障もない。
 暁成のためなら資料作りのひとつくらい、喜んでやってのける。

「二階堂部長!」
 
 志摩は会議室から暁成が戻ってくると、声色を変えて擦り寄って行った。
 誰にも怒られないことをいいことにやりたい放題だ。
 志摩の行為には目に余るものがある。
 しかし、誰も彼もが彼女のことは見て見ぬ振りをしている。
 志摩が純華堂の上層部の愛人だということは公然の秘密だからだ。
 古老から見目麗しく才気煥発な暁成への鞍替えを虎視眈々と狙っていたようだが、結果はご覧の通り、あえなく失敗。
 恨みつらみの矛先が櫻子に向けられ、目の敵にされたのは理不尽としか言いようがなかった。

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