麗しの旦那様、私の愛は重すぎですか?

 ◇

 昼休みになると、櫻子は弓塚と会社近くオープンカフェで食事を取ることにした。

「ほんっと!志摩のやつ、腹立つ!」

 弓塚は拳をテーブルに叩きつけ憤慨した。
 百倍の倍率を跳ね除け入社試験を突破した弓塚と違い、志摩は明らかなコネ採用だった。
 弓塚が不満を募らせているのは間違いない。
 
「櫻子さんも!自分の旦那さんに馴れ馴れしく引っついて腹が立ちません!?」
「弓塚さん、落ち着いて?そんな風に食べ物を扱ったら作ってくださった人に申し訳ないわ」
「す、すいません……」

 弓塚のやつ当たりを受けたハンバーグは、バラバラの挽肉の山にされていた。
 櫻子から嗜められると弓塚はシュンと項垂れた。
 真面目で努力家ゆえに、志摩のような人間が部内で大きな顔をしていることが許し難いのだろう。

「ほら、弓塚さん。ランチセットのかぼちゃのスープ、とっても美味しいわよ。弓塚さんも好きな味よ」

 櫻子は話題を変えるように弓塚にスープを飲むようすすめた。
 弓塚はスープを飲み干すと、ほうっと息を吐いた。
 
「櫻子さんって、本当にすごいですよね……」
「なにが?」
「だって、仕事も出来て、綺麗で、スタイルも良くて!会社案内の社員インタビューも読みましたよ。私、櫻子さんに憧れて純華堂に入社したんです!」
「そうだったの?」

 弓塚が読んだという記事は三年前に人事部に請われて引き受けたものだ。
 恥ずかしいからと一度は断ったのに、どうしてもと懇願され、櫻子が折れる形になった。

「櫻子さんが二階堂部長と結婚してくださって本当に嬉しいです!お二人は私の憧れなんです!」
「ありがとう」

 弓塚から熱烈な応援を受けた櫻子は微笑んだ。

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