麗しの旦那様、私の愛は重すぎですか?
二階堂夫婦の出張
「ただいま」
「おかえりなさい、暁成さん」
「あれ?そのスーツケース……」
暁成の出張を明日に控え、リビングにはスーツケースが広げられていた。
櫻子は帰宅した夫に微笑みかけた。
「暁成さん、出張の準備でお忙しいでしょう?せめて、私の方で着替えだけでも準備しようかと……」
「ありがとう、櫻子。君は本当に気のつく妻だね」
暁成はそう言うと、着替えのため書斎に入って行った。
もちろん、櫻子が着替えだけを用意するはずがない。
スーツケースの内側のポケットには小型のレコーダーを縫いつけてある。
これでホテル滞在中の暁成の様子を後から知ることができる。
(準備は万端ね)
櫻子は暁成には内緒で出張についていくつもりだった。
出張一日目の夜、仕事終わりに飛行機で現地入り。二日目の夜に東京まで戻る。三日目は暁成の帰りを家で待つ予定だ。
二日目に関しては、暁成から有給について詮索をされるよう仮病を使って仕事を休むことにした。
ただし、当欠しても大丈夫なように期日のあるタスクはあらかじめ済ませておく手筈だ。
(楽しみだわ!)
出張で緊張感の漂う暁成の表情。商談が終わり解放された時のリラックスした表情。
出張先でしか見られない暁成の表情を撮り逃すなんてことはあってはならない。
新しい望遠レンズも届いたところだ。性能を試すにはちょうどいい機会だ。
着替えてリビングに戻ってきた暁成は、上機嫌で肌着をスーツケースの中にしまう櫻子の様子に不思議そうに首を傾げた。