麗しの旦那様、私の愛は重すぎですか?
◇
どれだけ離れがたくとも、旅立ちの朝は容赦なくやってくる。
「空港までお見送りに行けなくてすみません」
「櫻子も仕事だろう?無理しなくていい」
暁成は旅立つ前に、最後に櫻子を思い切り抱きしめた。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい」
始発の飛行機に乗るため、暁成は空港へと向かった。
パタンと玄関の扉が閉まり、姿が見えなくなると、途端に寂しさが押し寄せる。
(行ってしまったわ……)
その日、暁成不在のマーケティング部は、火の消えたように静かだった。
「部長がいないと静かですねー」
「ええ、本当に……」
なにかとうるさい志摩も暁成の出張に同行して不在だ。
志摩がついてこなくても、暁成は何ら困ることはないのだが、本人たっての希望ということで仕方なく同行が許可されたらしい。
櫻子には関係ない話だ。
(早く、定時にならないかしら……)
櫻子は逸る気持ちを抑えられないでいた。
自分の荷造りは暁成が旅立ったあと、急いで済ませた。
あとは、マンションにスーツケースを取りに戻り、着替えて出掛けるだけ。
早く暁成の元に飛んでいきたい。