麗しの旦那様、私の愛は重すぎですか?
待ちに待った定時になると、櫻子はよどみのない動作でデスクの上を片付け退社した。
予定通りの電車に乗り込み、我が家に到着する。
着替えを済ませ、最後にスーツケースの中身を確認していく。
「忘れ物はないわね」
壁掛け時計を見ると、時間には余裕があった。
早めに空港に到着し、食事をすませておきたいところだ。
櫻子が電車の時間を調べていたその時、ピンポーンとインターホンが鳴った。
「誰かしら?」
オートロックのモニターを確認した櫻子は驚愕した。
モニターの中にはネイビーの品の良いセットアップを着た小柄な女性が映っていた。
「……お義母さま?」
『櫻子さん、いるのはわかっているのよ。開けてちょうだい』
暁成の母は威圧的に言い放った。
こちらの声と表情は伝わっていないはずなのに、居留守は使うなと念を押されている。
(もしかして、私が帰ってくるのをどこかで見張っていらしたのかしら?)
たとえアポなし訪問でも、愛する暁成をこの世に産み落とした義母に対し、居留守を使うなんてとんでもない。
櫻子は通話ボタンを押した。
「お義母さま、お待たせいたしました。どうぞお入りになって?」