麗しの旦那様、私の愛は重すぎですか?
今日だけでいくつ見逃した?
本当なら今頃は暁成と同じホテルで過ごしているはずだったのに。
旅先で何を食べ、いつ風呂に入り、どんな時を過ごしているのか。
――知りたい。
――知りたい。
――知りたい。
頭の中が原始的な欲求で支配されていく。
(今からタクシーで行こうかしら?)
時刻は夜の十一時を過ぎているが、深夜料金とチップをはずめば、請け負ってくれるドライバーもいるかもしれない。
櫻子自身もこの案が現実的ではないことは分かっている。
今からタクシーに乗っても、朝まで飛行機を待つ方が結果として早い。
せめてもの気休めに櫻子は暁成のスマホのGPS情報をずっと眺めてた。
矢印は宿泊先のビジネスホテルからピクリとも動かない。
それでも何もしないよりマシだった。
しかし、神は櫻子を見放さなかった。
ぼんやりディスプレイを見つめていたその時、なんと暁成から着信があった。
櫻子は慌てて通話ボタンを押した。
「……暁成さん?」
『よかった。まだ起きていたんだね』
「どうしたの?」
『櫻子が寂しい思いをしていないか心配で』
櫻子は思わず涙が出そうになった。
離れていても暁成は櫻子のことを気遣ってくれる。その事実に心が温かなもので満たされていく。
「ええ、とっても寂しいわ!」
『僕も寂しいよ。少しだけ顔を見てもいい?』
「寝る前でメイクも……」
『櫻子はいつも綺麗だよ』
櫻子はベッドから起き上がり、暁成に請われるまま、ビデオ通話に切り替えた。
ディスプレイにお互いの姿が映し出されていく。