麗しの旦那様、私の愛は重すぎですか?
(誰かしら……?)
櫻子は眉を顰めた。
この部屋は櫻子の名義で借りており、住所を知る者は他にいないはず。
モニターを覗きこんだ櫻子は、驚きで目を見開いた。
『櫻子、いるんだろう?開けてくれ』
櫻子が最愛の人を見間違えるはずがない。
モニターの向こう側に立っていたのは、出張に行っているはずの暁成だった。
暁成はこの部屋に櫻子がいると確信しているようだった。
櫻子が戸口に出てくるまで動くつもりがなさそう。
櫻子は通話ボタンを押すと、か細い声で尋ねた。
「暁成さん?どうしてここに?」
『外廊下から君がこの部屋に入っていくのが見えたんだ。開けてくれ』
「ダメよ。開けられないわ!」
『まさか……男でも連れ込んでいるんじゃないだろうね?』
「ありえないわ!」
浮気を疑われた櫻子は憤慨した。
この身体は頭の天辺から足の先まで暁成のものだ。
『やましいことがないなら開けられるはずだろう?』
「だって……この部屋に入ったら幻滅されてしまうわ」
『僕を信じて、櫻子。君を嫌いになるなんて絶対にないから』
「ずるいわ……。そんな言い方するなんて……!」
櫻子はしばらく悩んだ末に、恐る恐る玄関の扉を開けた。
「ただいま、櫻子」
「お帰りなさい、暁成さん……」
こんな時だというのに、一日半ぶりの再会に胸が躍る。
櫻子にとって暁成と離れている時間は、耐えがたいものだった。