麗しの旦那様、私の愛は重すぎですか?

 志摩がいなくなりふうっと息を吐いていると、非常階段の扉がゆっくりと開いた。

「櫻子」
「あら、暁成さん。聞いていたの?」

 志摩との会話を盗み聞きしていたのは、不倫をしたと暴露された張本人である暁成だった。

「やっぱり、僕の妻は君しかいないなあ……」

 暁成はクックと笑いを押し殺しながら、背後から妻を抱きしめた。
 会社だということを忘れ、しばし身を任せる。

「櫻子が嫉妬するところを見てみたかったんだけどな。彼女では相手にもならなかったね」
「あら?嫉妬なんてしませんわ」

 どういう意味だ?と、暁成はキョトンと目を瞬かせた。
 櫻子は後ろを振り返り、極上の笑みを浮かべた。

「暁成さんが誰を好きになろうと、私が暁成さんを愛していることに変わりありませんから」

 櫻子が興味を抱くのは他ならぬ暁成だけ。
 羽虫がいくら周りを飛んでいようと、一切気にならない。
 ひたすらに自分の信じる道を行くだけだ。

「……頼もしいな、本当に」

 暁成は愛する妻の頬にキスを贈った。
 これからも二階堂夫婦の狂気に満ちた生活は続いていく。





おわり





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