麗しの旦那様、私の愛は重すぎですか?
「もう着られないし、捨てといてくれるかい?」
「はい、わかりました」
櫻子はそう返事をすると、ワイシャツをダイニングチェアの背もたれに掛け、代わりにネクタイをとった。
「今日は深緑のネクタイはいかがです?」
「櫻子が選んでくれるなら、何色でも喜んで」
その言葉通り、櫻子が選んだネクタイに暁成が不満をもらしたことはこれまで一度もない。
櫻子はネクタイを暁成の首にくぐらせ、結び目を作り始めた。
ネクタイは毎朝、櫻子が手ずから選び、暁成の首に締めている。
亭主関白というわけでもないし、やれと強制された訳でもない。
櫻子がやりたいからやらせてもらっているのだ。
最初はたどたどしい手つきだったが、この半年の間にうんと上達した。
ものの数秒で綺麗な結び目が出来上がる。
「あ、そうだ。この間、話していた出張の件なんだけど、三日後になったよ」
「随分と急ですね」
「先方の都合の良い日程がそこしかなくてね。ついでにあちらの支社を巡ることになって、二泊三日で行くことになった」
「二泊も?」
櫻子の表情がどよーんと曇っていく。
暁成は月に一度程度、出張に行く。大抵の場合は日帰りか、一泊だ。二泊というのは珍しい。